こう見えて、私は緊張するタイプの男である。人前でのあいさつや、パーティーなどの席で
「一言スピーチをお願いします」なんて言われても、しゃべりながら何を言っているのか自分でも分からなくなる時がある。
そんな私だが、不思議とサッカーをする時には緊張というものをあまり感じない。
いい意味で適度な緊張、プレッシャーが心地良い、といったところだ。
むしろスタジアムに人が多ければ多いほど気持ちは高ぶり、ピッチに立った瞬間、
何とも言えない高揚感に包まれるのだから不思議なものである。
ただ、過去に1試合だけ、適度な緊張感なんて言葉では済まされない、
コントロール不能なほどの緊張に襲われた試合があった。
18歳、プロ入りして半年ほど経った時、私にJリーグ初出場のチャンスが巡ってきた。
当時、私は鹿島アントラーズに所属していた。センターバックの先輩方が警告累積で出場停止となったため、
巡ってきたチャンスだった。対戦相手は横浜マリノス、今でいう横浜F・マリノスである。
前日にスタメンを発表されて心の準備は出来ていたのだが、キックオフの時間が近づくにつれ、
私の心理状態は大変な事になっていた。
よく言う「口から心臓が飛び出そう」というものを我が身で思い知った。
心臓どころか、すべての内臓が飛び出そうだった。極度の緊張状態、パニックで頭は真っ白になっていた。
そんな私を救ってくれたのは本田さん(元日本代表)の一言だった。「いつも通りやればいいんだよ」。
何気ない一言だった。温かい一言だった。視界はクリアになり、勇気がわいた。
「いつも通り、あるがままの自分を出せばいい!」。そう思い、試合に臨んだ。
残念ながら負けてしまったが、私のキャリアの中で思い出深い、重要なゲームの一つとなった。
今でも思い出す「いつも通りやればいいんだよ」の一言。
そんな私が今はチームの若手に声をかけている。初心を思い出しながら、
自分に言い聞かせながら。
*毎日新聞 夕刊(金曜日/月一回)コラム『サッカーマインド』に連載中。 |